新NISAの影響で投資は一般的になり,分散投資という言葉も一般的になってきていると思います。今回は,クラウドファンディング,ソーシャルレンディングでの分散投資のメリット・デメリットと,実例を挙げての投資行動への反映指針について書きたいと思います。
分散投資のメリット・デメリット
まず一般的な分散投資のメリット・デメリットから見てみます。
分散投資のメリット
分散投資のメリットは下記の1点に尽きます。
・複数の資産に投資することで、特定の投資先資産の失敗リスクを軽減できる
分散投資により,1件あたりの元本棄損額が大きくなるリスクを回避できます。
分散投資のデメリット
一方で,分散投資のデメリットは小粒のものをいくつか挙げることができます。
・管理の複雑化:多くの資産を管理することで時間と労力を要し,投資家にとって負担となることがある
・ コスト増加:複数の資産に投資することで、取引手数料や管理費が増加する可能性がある
・市場リスクの残存:分散投資を行っても,市場全体の下落時には全ての資産が影響を受ける可能性があり,完全なリスク回避は困難
クラファンの場合の例を考えてみます。
1つ目「管理の複雑化」は,いくつものクラファンサービスの異なるファンドに分散投資して,それぞれの運用期間をみながら投資・出金を繰り返すのは面倒という話です。
2つ目「コストの増加」ですが,基本的にクラファンではデポジット口座の維持などの管理費は一切かからず無料ですが,1に書いたように,分散投資をすると頻繁に投資・出金を繰り返すことになります。これらの手数料は投資家負担の場合も多いので,コストの増加に繋がります。
3つ目「市場リスクの残存」ですが,例えば不動産クラファンの場合は全国的に不動産の価格が下落すれば,クラファンの業者や案件を分散していても業界全体としての影響を被る可能性が高いです。ただ,これについては集中投資でも同じですので,「分散投資のデメリット」とは言えませんね。
分散投資を高校数学的に考える①ー分散投資でリスク発生確率は増える!
今回焦点を当てたいのは,分散投資で具体的にはどのようなリスクがどのように低減されるのかについてです。ここでは簡単な事例をもとに高校数学的に考えてみたいと思います。
下記のような簡単な投資例を考えています。利回り6%(はどうでもいいのですが)の5つのファンド案件があり,それぞれ元本棄損のリスク1%(1年など,ある期間に1回など適当なイメージで良いです)とします。
この例で,集中投資,分散投資した場合の各リスク指標を高校数学的に求めてみます。
元本棄損確率
まず元本棄損1件の発生確率,いわゆる被弾率と呼ばれているものを計算してみます。集中投資は投資案件が1つなのに対し,分散投資では5つで,5つの投資案件のリスクは等しく1%と仮定しているので,元本棄損確率は以下になります。
元本棄損確率P
集中投資P1:1%(=1%×1)
分散投資P2:5%(=1%×5)
このように分散投資では集中投資と比べて,同じリスクを持ったファンドに5倍の案件数投資しているのでトータルのリスクは5倍になります。つまり元本棄損1件の発生確率では,分散投資することでリスクが増します。
元本棄損発生時の棄損額の期待値
次に,元本棄損により失われる額の期待値を求めてみます。
被弾時の元本棄損の期待値E(全損の場合)
集中投資E1:5万(=P1×500万)
分散投資E2:5万(=P2×100万)
分散投資では一件当たりの投資額が集中投資の1/5なので被弾一件当たりの被害は少ないですが,被弾率(元本棄損の発生率)が5倍になるので,結果集中投資と同じになります。
では分散投資によって下がるリスクは何かというと,被弾1件発生したとき(実際には被弾率は挙がっているものの)に棄損する金額,これだけです。
現実系では分散投資のリスク発生確率はさらに増える!
これまでは,利回りもリスクも同じ案件に複数投資するというある意味理想的な場合を想定して考えてきました。しかし,実際に複数ファンドに分散投資する場合,その時々で個人的な評価を含めたファンドの優劣があり,評価の高い案件から投資していくものではないでしょうか?
当然,まずはリターンが大きく,リスクの小さいとファンド案件を優先に投資していきます。後続の投資についてですが,資金は遊ばせたくない訳ですから,なるべく早くどこかに投資してしまおうと思うはずです。
その際,リスクだけは絶対に取りたくないということであれば利回りの低い案件を掴むこともあるでしょう。あるいは,利回りは同じで少しだけリスクの高い案件に投資してしまいがちです。
具体的には次のような例を考えてみます。
集中投資の場合,そのとき最も優れると思われる左のリスク1%の案件に集中投資します。分散投資の場合は,分散するためには最も優れると思われる案件以外のリスク2~5%の案件に投資することになります。
分散投資で5つのファンドに等しく投資したとすると,先ほど算出した元本棄損確率は下記になります。
元本棄損確率P
集中投資P1:1%(=1%×1)
分散投資P2:15%(=1%+2%+3%+4%+5%)
もともと分散投資で5倍高かったリスクがさらに差が開き15倍になりました。
次に,先の例で両者等しかった元本棄損により失われる額の期待値を求めてみます。
被弾時の元本棄損の期待値E(全損の場合)
集中投資E1:5万(=P1×500万)
分散投資E2:15万(=P2×100万)
今回は分散投資の方が,被弾発生確率を加味した被害額は大きい結果となりました。
つまり,今回の例は集中投資するより分散投資する方が損する確率も金額も大きい,と言える状況になっています。
投資行動への反映
これまでの結果を踏まえてのクラファンの投資行動にどのように反映させるかの話を書きたいと思います。
結論としては,闇雲に投資先の業者やファンド案件を広げて分散投資してリスクを高める要因になるということです。未来のことは分からない,不確定要素があるのは認めた上で,クラファン業者を厳選して,安全性が高く,利回りも見込めるファンドの適度な反映した上で分散投資していくことが重要です。
ここで断っておきたいのは,最良の選択肢を増やす意味で様々クラファンやファンドを調べて投資するのは全く否定はしません。むしろ先の例でいうところの,よりリスクの低い選択肢を増やすことに繋がります。
しかし「最近話題の利回りの良い〇〇に投資してみよう」「初回投資のアマギフ還元率が高いから」と言った理由で闇雲に投資先を広げてしてい,分散投資先にリスクの高い案件を含んでしまうと痛い目に遭う可能性が増すということです。
極端な例だと今後5年もすればどこかのクラファン業者は店じまいするでしょう。そして大規模な元本棄損を伴うかもしれません。しっかりとして分析をせずに手を広げれば広げるほど,そういった不良業者を意図せず掴んでしまう可能性が上がるということです。
まとめ
分散投資によって被弾する確率自体は増加しますし,投資件数が多くなると優良ファンド以外に手を出すことになりかねないので,さらにリスクを高めることになります。分散投資によって得られる効果は一件被弾したときの棄損額のみです。これはもちろん重要な視点ですが,多くの投資家は「一件も失敗したくない!」だと思うので,トータルリスクを下げるために適度な範囲での分散投資をすすめたいと思います。